沈澱中ブログ

お笑い 愚痴

こんな時代やから、永野が好き

水色のシャツに真っ赤なズボンを履き、髪を搔き上げながらカメラを指差す奇人、永野。僕は永野が大好きだ。番組で落とし穴に落とされてとんねるず相手にブチ切れ、番組途中で帰った(実際にはグダグダのリアクションをしたあと、「永野、あのリアクションひどいよ。もうカメラに映っちゃ駄目。端っこ行って」と石橋貴明に言われたのだが、そのノリがバッサリカットされたため、突如画面から消えた形となった)」という件と、「PON! で、若手イケメン俳優の松本大志を二発もビンタし、スタジオを変な空気にした(視聴者から、「テレビで暴力をふるっている男がいる」と最寄りの警察署に通報が入った、という最高のエピソード付き)」件によってネットで叩かれがちな永野だが、僕は永野が大好きだ。永野が出る回は必ずネタパレを観ているし、好き過ぎて、私服を水色のシャツと赤ズボンにしようかと数秒間悩んだこともあるほどだ。そういえば以前、『月曜から夜ふかし』の街頭インタビューに登場した黒髪ロン毛でサングラスを掛けた若い男が、「みうらじゅんさんが大好きで、みうらじゅんさんみたいな大人になりたくてこの格好を」と言っていたが、みうらじゅんみたいな大人になりたくてまず手始めにみうらじゅんみたいな格好をしちゃう奴は、永遠にみうらじゅんみたいな大人にはなれないだろう。

で、まあ永野に話を戻すと、そんな水色と赤の奇人がブレイクする前、黒のジャケットなんか羽織ってちょっと格好良かった頃、所謂孤高のカルト芸人時代に『目立ちたがり屋が東京でライブ』というDVDがリリースされた。ロフトプラスワンで行われた単独ライブの模様と企画映像を収録した本作は、『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol.ぶどう』並にILLなDVDだと思っている(ILLと言えば我らがBUDDHA BRANDのセカンド・アルバムですが、期待を裏切らないカッコよさでした)。2015年、ブレイク後のインタビューで「生まれたところや皮膚や目の色で人を差別してる」「ドブネズミとか超汚いし」「人を貶めて笑いを取る芸人は多いですけど、僕は自分がバカになって笑いを取る方が好き」「お笑いの天才がやってるライブなんかより、フツーのサラリーマンが週末の居酒屋で発狂してるところを見たほうが面白いんだ! っていうことを証明しようと思います」と語っていた永野のパッションが、『目立ちたがり屋が東京でライブ』では炸裂している。その中でも一際僕が好きなネタであり、死ぬほど笑ったのが、「浜辺で九州を一人で守る人」だ。「で」のリフレインが心地良いタイトルである。坂口安吾の『桜の森の満開の下』のようだ。

「浜辺で九州を一人で守る人」とコントのタイトルを述べたあと、永野は眉の垂れ下がった激落ちくんみたいな表情の間抜けなマスクで目元を隠し、ショットガンを手に持って、舞台(九州の浜辺)をうろつく。口をすぼめながら周囲を警戒するように動く挙措が、既にちょっと面白い。そして永野は、九州の外からやってきた人物を見つけ、銃を構えて問い質す。

「あんた誰ね? あんた誰ね? 九州の人ね? 九州の人〜? ……東京から帰ってきた?」

その後東京について田舎者丸出しのやりとりをしてから、永野は相手の「入国」を許す。再び口をすぼめてオモロい動きで舞台をうろつき、誰かを見つけた永野。ショットガンを向け、先程同様問い質すと、

「……何? 千葉から来た?」

その瞬間、永野は口をすぼめてショットガンをぶっ放した。多分銃の構造的におかしいのだが、何十発と連射する。間抜けなオレンジ色のマスクで目元を隠し、口元からは何の感情も感じられない。どうせそのうち銃をぶっ放すのだろうとは予想していたが、いざその時が来ると、僕はアホほど笑ってしまった。相手が千葉から来たと分かってから撃つまでのスピードの速さと永野の表情がたまらなく面白くてツボに入り、千葉の何があかんねんと、死ぬほど笑ってしまった。

このあと相手が倒れると、永野は銃口を下に向け、銃を撃ち続ける。ようやく撃ち終えると、相手の髪の毛を鷲掴みにし、「な〜に、ま~だ生きちょんねえ?」と呆れたように言って、再び銃をぶっ放す。アントン・シガーに匹敵するサイコな殺し屋っぷりに、僕は腹を抱えて死ぬほど笑った。

「愛」と「狂気」という言葉は口にした途端に薄っぺらくなるものだが、それでも言いたい。このコントには、このDVDの永野には、狂気を感じる。それは例えば、かもめんたるのコントを観て感じる剥き出しの狂気とは違う。運動をしたあとにシャツがじっとりと汗で濡れていることに気付いたときのような感覚というか、言語化が難しいが、あえて言うならば、永野の狂気は、切実さに似ている。

ブレイク前夜、永野はオールナイトニッポン0の三分間のオーディション映像にて、黒いジャージ姿で、次のように語っていた。下手な書き起こしだが、僕は扇動的なタイトルを付けてアクセス数を稼ごうと思ったり世界が数字で出来ていると思ったりはしていないので、読んでいただきたい。

「はい、こんにちは。え~、トゥインクル所属のお笑い芸人……、あ、間違えました、間違えました、すぐ間違える……、グレープカンパニー所属のお笑い芸人……、ホントはもう、お笑い芸人なんて名乗りたくないんですが、永野と申します。まあ、生まれ変わったらですね、ヒップホップやりたいなと思ってますけども。お笑い芸人なんてね、食えない職業で、ええ、ねえ、食えない割に、熱心なライブの通いの客に叩かれたりとかね、面白いことなんて一切ございません、はい。そういう中ですね、私、最近横断歩道で、おばあさんが……、もう、おばあが、こう渡れなさそうにいたんですね、ゆっくり。ちょっと、もう青信号が……、早いじゃないですか、都会は青信号終わるのが。そこでですね、僕も最近むしゃくしゃしてたんですが、おばあさんの手を引いて、カチカチカチって青信号がなる中、行った訳ですね。まあそれまではもう、日々の疲れ、ストレス、怒りでイライラしてた僕ですが、おばあさんの手を引きましたところ、横断歩道を渡り切った時おばあさんが、「ありがとう」って言ったんですねえ。そんとき僕、ぱあって嬉しくなりましてね、イライラが消えて。人間って面白いなあって思いますね。ありがとう、って言葉で、こうもね、気分が変わるんだなって、まあ、人間って面白いなって思いますねえ。そういう、人間のその機微を、心の機微を、静かな声で、三時台から話していきたいなって僕は思ってますね。今、非常にやかましくて、クソ面白くないんでね、ラジオが。はい、面白くない。ただただ威勢のいい芸人がぺちゃくちゃぺちゃくちゃやかましい中、私はおばあさんの話……、そうですね、大体年寄りに向けたラジオをこれからは……。三時に起きますからね、年寄りは。年寄りに向けたラジオをやっていきたいな、なんて思ってますけど。多分、恐らくですけど、まあ、政治的なことがなければ私は通るんじゃないかと思ってますね。こんな新鮮なインパクト……この、はい、そういう中でですね、永野です〜。私、温かい、もう一度日本人って何なんだって考えるラジオ、作っていきたいと思います。あ、失礼しました、今こうやって(腕を組んで)ましたけど、すいません、すいません。じゃ、ありがとござっしたー」 

結局、永野がパーソナリティに選ばれることはなかった。多分、政治的なことがあったんだろう。たまたまYouTubeで本人だか所属事務所だかが公式にアップしていたこの動画を見たのが、僕が最初に永野を知った瞬間だ(ちなみに、今は削除されている)。「オモロいのになあ、これ通らへんねや」と些か悲しくなったのを覚えている。それから少しして、正月深夜の特番で小籔と中川家サンドウィッチマンの前でネタを披露しているのを見て腹を抱えて笑い(「富士山の頂上から2000匹の猫を放つ人」や「◯◯に捧げる曲」シリーズ、「天使の声」などの強力ラインナップだった)、その翌日に「さんまのまんま」で明石家さんま今田耕司井上真央の前で「お猿の呼吸」を披露している姿を見てもう一度爆笑した。これは売れるな、と感じ、実際にその年の末にアメトーーク! のパクりたい-1グランプリで「ゴッホより〜♪」を披露し、売れた。俺は早めに目を付けてたんやで、というアピールではなく(そのアピールをする資格があるのは、カルト芸人時代の永野の「熱心なライブの通いの客」くらいだろう)、売れる寸前の永野を、大空高く飛び立つために滑走路を駆ける永野の姿を、僅かでも見られたのは幸福だったなあ、という単なる感想である。

永野には是非とも、ドキュメンタルに出て欲しい。ザコシショウの牙城を崩せるのは、永野だけだ。或いは、もしかしたら死ぬほどスベり、レビューで酷評されるかもしれないが、少なくとも「大して目立ちもせずにしれっと敗退」なんてことにはなるまい。

この文章を書いている今、27時間テレビ内が絶賛放送中だ。その中のワンコーナー「さんまのお笑い向上委員会」に残念ながら永野は出演していないが、先週の放送には、謹慎明けのザブングル加藤への対抗馬として出演していた。同番組で「魔王」と綽名されている加藤に対し、永野は自分が「新魔王」だと登場する。

なんやかんやと二人は対決したり何故か理不尽にかまいたちの濱家が巻き込まれたりしながら、番組は終盤へと突入する。「ウケることをする」と言い、一度袖に引っ込む永野。ひな壇の芸人らは拍手し、さんまが「次、永野やで、永野」と言うと、「永野じゃないよ~、しあわせボーイだよ~」という声が返ってくる。そして永野は、笑顔でダブルピースをしながら軽快なステップを踏み、「し~あわせ、し~あわせ、しあわせボーイ~♪ し~あわせを~、運びにき~たじょ~♪」という歌と共に登場する。苦笑するスタジオの空気を意に介さず、加藤の元にやってくると、永野は「新魔王だよ~」と言って微笑む。加藤は般若のような顔になり、「ブチ切れるのかな」と視聴者が思った一瞬の隙にダブルピースを作り、永野と二人で仲良く「し~あわせ、し~あわせ、しあわせボーイ~♪」と歌い、踊り出す。膝を付き呆れて笑うさんまと、苦笑気味のスタジオ。そこで永野は不意に歌と踊りを止め、すたすたとさんまの元に歩み寄る。急に梯子を外されて困惑する加藤。永野はさんまに向かって、「(この流れを)全部使ってください」と頼む。「(ウケてへんのに)なんでや?」とさんまが真顔で訊くと、スタジオはややウケ、「そりゃ『なんでや?』やわ」と礼二は同意し、千原ジュニアは手を叩いて笑う。カメラに抜かれた加藤が、「おーいっ! お前、今のなんやねん? なんやねん、しあわせボーイって」とキレると、スタジオはさらにウケる。いよいよ最終決戦だ、という空気になり、永野は加藤の元に歩み寄る。「なんやねん、しあわせボーイっちゅうのは。説明しろ、ちゃんと」とキレる加藤。荒い息遣いの永野は、凛々しい表情で加藤を見上げて答える。

「こんな時代やから……」

「こんな時代やから⁉」とキレ口調で繰り返す加藤と、ドッと湧くスタジオ。加藤は堪え切れずに笑い、「どういうことやねん」と口にする。

僕はこのシーンを見て爆笑するとともに、少し感動してしまった。「名言っぽいけど」とFUJIWARAの原西は突っ込んでいたが、割とマジで名言やと感じた。こんな時代やから、しあわせボーイ。こんな時代やから、永野だ。

今後永野がテレビの生放送でとんでもないメチャクチャをしでかしてテレビから姿を消してもそれほど驚かないし、十年後くらいに、「コント『おみそ汁の達人』」のときみたいな顔をして、NHKのビットワールドにおけるいとうせいこう的ポジションにしれっと就任していたとしても、それはそれで案外違和感がない。そういう不思議な魅力が、永野にはある。もし永野がこの文章を読んだら、「何こいつ? ダラダラと知った風な口利いて。うぜ〜」と言いそうだが、そういうところも含めて、僕は永野が好きだ。

以上、オチはないが、お時間ございましたら、永野のDVD『目立ちたがり屋が東京でライブ』と『Ω』を買うてみてください。超旨い毒キノコみたいなDVDです。終わり。