沈澱中ブログ

お笑い 愚痴

「で、オチは?」

 2020年9月10日、コラムニストの小田嶋隆氏がこんなツイートをしておられた。

『大阪の会話マナーには私も適応できなかった。「お前はとっかかりからオチまで全部一人でしゃべるからダメなんや」と、豊中出身の同僚にきびしく指導されたのだが、結局身につかなかった。全員に話をふって、コールアンドレスポンスで回しながら最後にオトすとか、そんな高度な仕事は無理だった。』

『「昨日な梅田行ったんや梅田。知っとるか?」「ああ、あの赤くて酸っぱいヤツやな」「梅干しちゃうわ」みたいな、お約束のコール&レスポンスは、能力の問題を超えてテレパシーが通じてる人間同士でないと成立しないと思う。オレにはできない。一生涯無理だ。』

 小田嶋氏は一時期大阪に住んでいたそうだが、俺は上記のツイートを読んで、氏は「で、オチは?」と周囲の大阪人から時折言われただろうなと想像した。

「で、オチは?」は、他府県民がしばしば批判する大阪人の言動の一つだ。だが、「で、オチは?」には、三パターン存在する。一つ目は、仲の良い者同士の軽い戯れ。「で、オチは?」「ないよ笑」「ないんかい。時間返せ、なんの話やってん!笑」みたいなやつだ。

 二つ目は、バカリズムのコントに登場する中森くんのような、「わて、笑いの本場・大阪で生まれ育ちましてん!オモロいでっしゃろ!大阪人が二人集まれば、もうそれは漫才でっせ!そんじょそこらの東京芸人よりオモロいわ!」イズムの持ち主がマウンティングのために発するものだ。吉本興業の威を借るサブい奴である。小田嶋氏の周囲は多分、そういう人だらけだったのだろう。というのも、氏は「昨日な梅田行ったんや梅田。知っとるか?」「ああ、あの赤くて酸っぱいヤツやな」「梅干しちゃうわ」みたいなやりとりを大阪のお約束のコール&レスポンスだと思っているからだ。俺の周りの大阪人は最低でも、「あのカップル、あんなとこで何してんねんやろ」「夜景見てるんちゃう?」「ロマンチックやな。このあとホテル直行か。羨ましい」「夜景は労働者達の命の灯火やぞ。そんなもんで体、火照らすなっちゅうねん」程度の会話は即興でする。「梅田知っとるか?」「(梅田……梅……梅干し!)あの赤くて酸っぱいヤツやな」なんて面白くないかつ不自然(梅田を知らない大阪人などいないから、「梅田。知っとるか?」など大阪人相手に普通訊かない)なやりとりを大阪のお約束のコール&レスポンスだと思い込んでしまうほど、小田嶋氏の周囲の大阪人はつまらない奴ばかりだったのだろう。そうしたつまらない奴らはきっと、氏に対して「で、オチは?」と何度もドヤ顔で言ってきたに違いない。心底、同情します。

 さてところが、つまらない奴がマウントを取るために発する「で、オチは?」ではない「で、オチは?」も存在する。三つ目、「さっきから延々と独りよがりでつまらん話をした挙句、急に終わんなよ。どういうつもりやねん?」の意を込めた「で、オチは?」だ。大阪人は別に、毎回毎回話に落語のような「オチ」を期待している訳ではない。「で、オチは?」の「オチ」とは、「会話のパス」のことだ。特に小噺的オチのないバイト先での愚痴を話したあとに、「◯◯やったら、こういうとき客相手でも文句言う?」とか「だから、今めっちゃ落ち込んでんねん。◯◯はいつも気分転換に何してる?」などと言ってくれれば、「で、オチは?」などとは返さない。会話は楽しく進む。だが時折、「a scary story」の設楽みたいな口調で延々と話をした挙句、「だからまあ、いつもよりバイト疲れちゃったんだよねえ……」と言ってそれきり口を噤むタイプの奴がいる。会話はサッカーのパス回しと同じだ。パスを貰ったら、良きタイミングで誰かにパスを回せ。一人でボールを持ち続けるな。落語や芸人のエピソードトークほど面白い話なら、超絶技巧のリフティングみたいなものだから、一人でボール遊びしていても構わない。だが、ぼてぼてと蹴り続けた挙句にボールをほっぽり出し、「お前が取りに来い」とでも言わんばかりの奴には、そりゃ苛立ちもする。「ドリブルが下手なんはしゃあないからええけど、満足いくまで蹴ったならパス寄越せや!」という怒りが、「で、オチは?」には凝縮されているのだ。

 盛り上がりに欠ける話やユニークなオチのない話をしてくれても、一向に構わない。ただ、この話をあなたに伝えたい、共有したい、会話をしたいという姿勢を見せて欲しいのだ。自分の言いたいことを最初から最後まで全部一人で喋りたいだけなら、パートナーや恋人やよっぽど気の置けない親友を相手にしてください。拙いドリブルやリフティングでもニコニコ見守ってくれるような間柄の相手に。もしくは、SNS掲示板やブログに書き連ねてください。今の俺みたいにね。以上。終わり。