沈澱中ブログ

お笑い 愚痴

M-1グランプリは超オモロい漫才特番な訳で

 大阪・宗右衛門町にある雑居ビルの地下2階で開催されたM-1賭博に参加し、単勝モグライダーに有り金350万を突っ込んで負けた訳ですが、やっぱり今でもモグライダーが一番面白かったという感想は揺るぎません。今回の決勝進出者のほぼ全組を知らなかったという恋人にM-1について尋ねると、「猫のやつと一日署長のやつが面白かった」とのことでした。初見でランジャタイと真空ジェシカが刺さるとは、素敵なパートナーを見つけたものです。ちなみに、卒論のために上野千鶴子の『発情装置』という本を読んでとても面白かったとも語っており、お、マジでか、上野千鶴子読んだことないけどほな読んでみよかな、という気になっています。まあ、こう書きつつ、読むのはどうせしばらく先になるんですが。

 で、M-1の話に戻ると、どの組が一番面白かったかなんつーのは好みでして、M-1に限らずあらゆるものの審査というのは、好みに尽きます。ただ、構造を分析して、よくできているか否か、上手いか下手か、みたいなジャッジを下すことは可能です。が、M-1の決勝に進出するような漫才師ならば基本的にはいずれもハイレベルな訳で、ファイナリスト10組を綺麗に10段階に割り振れるほどの明確な差はありません。お笑いは構造分析が可能であり、批評や評論の対象となり得るが、その分析だけでは到達できない「なんかよう分からんけどオモロい」という部分がほんの少しだけある、と俺は思っています。お笑いに限らず、大体なんでもそうでしょうが。

 で、M-1レベルの戦いならば、勝敗を分けるのはその「なんかよう分からんけどオモロい」部分なんじゃないかなあと思う訳で、だから、審査員は好みで審査していい、というか、よほど明確な差がない限り、好みでしか審査し得ない、というのが俺の考えです。

 であるからして、我らがえみちゃんこと上沼恵美子の審査を今年も肯定する次第です。えみちゃんが付けた各組への点数と順位は次の通り。

同率1位.インディアンス ハライチ(98点)

3位.ロングコートダディ(96点)

4位.錦鯉(95点)

5位.ゆにばーす(94点)

同率6位.モグライダー オズワルド(93点)

8位.もも(90点)

9位.真空ジェシカ(89点)

10位.ランジャタイ(88点)

 基準点のモグライダー(93点)から±5点です。俺は先述の通りモグライダーがベストでしたし、インディアンスもハライチもそこまでピンときませんでしたし、真空ジェシカとランジャタイで結構笑ったので、えみちゃんの点数と俺の感想は全然違います。けどまあ、別にいいんじゃなかろうかと思います。万人受けする笑いなど存在しない以上、審査員の好みが違って当然です。他の審査員と異なる基準や価値観の審査員が批判されるならば、観客の笑い声の大きさを測って一位を決めればいいじゃないすか、と思います。ちなみに、えみちゃんを除いた六名が審査員だった場合の1stステージの順位は、次の通りです。

1位.オズワルド

2位.錦鯉

3位.インディアンス

4位.もも

5位.ロングコートダディ

6位.真空ジェシカ

同率7位.モグライダー ゆにばーす

9位.ランジャタイ

10位.ハライチ

 上位3組は変わらず、実際には4位だったロングコートダディが5位に、5位だったももが4位になります。また、真空ジェシカと同率6位だったゆにばーすがモグライダーと同率の7位に、最下位がランジャタイではなくハライチに、という結果です。これをどう思うかは各人の価値観に依るでしょうが、上位3組はブレていないですし、7人の審査員のうちの一人がもたらす順位への影響としては、全然許容範囲内だと感じます。面倒なので調べていませんが、他の六名の審査員を対象に同様の試算をしても、似たような違いが生まれるでしょう。

 というかそもそも、M-1でのえみちゃんが批判されているのって、点数じゃなくて審査コメントなどの番組全体を通した振る舞いが原因な訳ですよ。えみちゃんの振る舞いへの嫌悪感が、えみちゃんの審査にまで遡及してしまっている訳です。けど、俺はえみちゃんのM-1での振る舞いも肯定しています。どこまで意識的・自覚的なのか知りませんが、競技化されたM-1、感動的なスポーツ大会のような様相を呈しているM-1を、えみちゃんだけは内部の人間でありながら適度に茶化しています。「いうて、M-1もテレビのお笑い番組やんか」というえみちゃんの態度は、M-1に人生を賭けている多くの芸人や彼らを愛する多くのお笑いファンの目には、ある種の侮辱に映るのかもしれません。しかし、俺はそこに大衆と寝てきた女帝の矜持というか信念みたいなものを勝手に感じ取って、ええなあと思う訳です。お笑い芸人の格好良いエピソードや格好良い姿がバンバン表に出る現状や、それを多くの人々が是としている現状に若干の抵抗を感じる人間にとって、そうした流れを加速させている要因であるM-1を心置きなく楽しむためには、えみちゃんの存在は最高の清涼剤になるのです。

 過去にM-1の決勝でネタを披露したハライチの漫才を「初めて見た」とえみちゃんは言いました。でも、キングオブコントに出場した芸人と後々バラエティ番組で会っても全く覚えていない、なんつーのは松本人志もしょっちゅうです。また、真空ジェシカのセンスを誉めつつ、知識不足でついていけなかった、悔しいと正直に語るのが世間の人々に言わせりゃ「審査員失格」らしいですが、なんつー誠実な態度だろうと俺は感動しましたよ。しかもその後、真空ジェシカの川北が「本当に、センスがあって良かったです」とコメントしたあと速攻でコケるジェスチャーをしてみせるのも、芸人らしくていいじゃないですか。

 ハライチに高得点を付けたあとの「他の審査員おかしいわ」という発言も、そう言いたくなるくらい私はハライチの漫才を面白いと思ったという激励な訳で、まあ自分と異なる他の審査員をdisるなんてのは当然悪手ですが、M-1を神聖なる漫才界の頂上決戦ではなく面白い漫才特番だと思っている身からすると、フツーに笑いました。

 ファイナルステージ直前の「一組はダメだろうなっていうのはわかっています」というのも同様で、そりゃ不快に思う人の気持ちも分かりますが、でも俺は、なんでそんないらんこと言うねん、と笑っちゃいました。大事な場面で言うたらあかんいらんことを言う、というのが、どうしても好きなんですよ。

 えみちゃんが好みで点数をつけていることを批判している人々もまた、審査員を好みで審査しているのでは?と感じます。たとえば板尾創路がえみちゃんみたいに他の審査員とは違う点数を付けていった場合、同じように批判するのでしょうか。やっぱり板尾は独特やなあ、と笑いませんか。笑いませんか、そうですか。

 ま、あなたがえみちゃんの審査やM-1での態度をどう思っていようが、一向に構いません。俺はええと思うし、あなたはええとは思わへん。それだけの話、好みです。それより俺は、ランジャタイが手紙を書いて送ってくれた実は礼儀正しい奴っちゃという話を長々と喋ったオール巨人に対して首を傾げましたし、その話に対して「もー」と苦笑していた塙はやっぱええなあ、と思いました。そして、実はその手紙はランジャタイ二人合わせて便箋9枚送ったというイカレエピソードを大会終了後に披露していたランジャタイを、やっぱええなあと改めて思いました。

 M-1への感想はそんな感じです。M-1が終わり、今年のクリスマスイブは、恋人と香川県に旅行に行きました。うどんも骨付鳥もオリーブハマチも旨く、栗林公園の松の美しさは圧巻で、父母ヶ浜で夕陽が沈むまさにその瞬間を見られたのは最高の思い出になりました。メリークリスマス、ミスターローレンス、と恋人に言うと、何それ?と言われました。翌日、坂本龍一戦場のメリークリスマスの音符を一音ずつNFTで販売したというニュースを見て、何それ?と今度は恋人と声を揃えて言いました。昨今流行りのNFTの良さを分かりたい、悔しい、というこの思いはきっと、真空ジェシカの漫才を観たえみちゃんの気持ちと同じでしょう。

 嘘。NFTの良さを分かりたいとも悔しいとも思いません。だって、訳分からんもん。無知・未知に対する不誠実な態度ですが、しかし改める気もありません。俺は何も審査しないので。終わり。