ブランコを漕ぎたいなぁと思い立ち、部屋の鍵だけ持ってマンションを出、近くの公園へ向かう。丑三つ時、コンビニだけが開いている。と書いた方がエモいが、深夜営業のダイニングバーの明かりは点いている。前を通ると、そこそこ話し声も聞こえる。部屋着の半袖短パン姿で出てきたため、夜の冷たさを肌で感じる。儚い秋の訪れを知る。トラックやチャリが僅かに走っている。踏切を越え、五分ほどで無人の公園に到着する。ブランコに腰を下ろし、誰に向けてのエクスキューズなのか分からないが、やや照れ臭そうな笑みを浮かべて静かに漕ぎ始める。25歳にもなって夜中にブランコを漕ぐためだけに外出するという誰に向けてなのか分からない変な奴アピールと童心に帰るというエモいシチュエーションに酔うためだけにお前は公園まで来たのではないのかと、冷めた自分が問い掛けてくる。地面を勢いよく蹴る。ブランコが加速する。ささやかな浮遊感を覚える。重力の存在を実感する。飛翔する鳥の最も卑近な擬似体験を味わう。パイプとチェーンの接合部が錆びた音を立てる。ぶっ壊れて転げ落ちることを想像し、股間が縮み上がる。全身で夜気を掻き混ぜながら、鎖に繋がれた自由を味わう。まあまあ楽しいなぁと感動する。期待していたほどではないなぁと落胆する。人生の大半がそうやなぁと虚しく思う。童心には帰れず、飽きてくる。公園の前を一台のパトカーがゆっくりと徐行している。降りてきて職質をしてくるだろうと辟易する。同時に高揚する。パトカーがそのまま通り過ぎ、姿を消す。ブランコが減速する。地面を軽く蹴る。束の間加速し、また減速する。静止する。立ち上がり、公園を後にする。何事もなく帰宅し、現実逃避にブログを書き始める。オチの付け方に頭を悩ませる。オチを付ける必要などないと思い直す。ブログは書き掛けのまま放置し、目を逸らしていた納期間近の仕事に手を付け始める。カーテンの隙間から早朝の光が差し込む。朝寝、昼起き、夜ご飯の一日一食生活を送っているため、布団に入る。永野のオールナイトニッポン0をradikoで再生する。永野がタイトルコールをしたところで、眠りに落ちる。終わり。