沈澱中ブログ

お笑い 愚痴

平凡な一日、伝説の一日

 二〇二二年、四月三日。休みだったので、午前10時の映画祭で『ゴッドファーザー』を鑑賞した。劇場で観るのは初めてだったが、案の定家で観る数倍の没入感で、猛烈に面白かった。この前『ザ・バットマン』を観た際は「オモロいけど長いなあ」と感じたが、というか3時間も座りっぱなしなのだからケツが痛みを訴え始めるのは当然で、「長いなあ」と感じるのはしゃあないのだが、『ゴッドファーザー』にはそれがなかった。エンドロールが流れ始めた瞬間、「完璧!」と言いたくなった。

 このあと恋人と合流して、あべのハルカス印象派展に行く予定だったが、体調不良とのことで中止になったため、一人で昼飯を済ませたあと喫茶店に入った。アイスコーヒーを頼んでから煙草を家に忘れた事に気付き、店員に断りを入れて買いに出た。しかしまあ、両切りのピースっちゅうのはホンマにどこのコンビニにも売ってませんなあ、この前売ってない煙草屋に遭遇したときはブチギレそうになりましたよ。ということでやむなくロングピースを買い、フィルターを千切って吸うことにした。

 不味くない。というか、全然普通に旨い。けど、当然ショッピには劣る。できればショッピを吸いたいなあと思いながらフィルターを千切ったロンピーを吸うという、ジュディ・オング状態を続けるうち、灰皿が一杯になった。退店し、そそくさと帰宅した。予定が空いたので、後日観る予定だった吉本興業『伝説の一日』千穐楽参回目のアーカイブ配信を観ようと思ったのだ。お目当てはもちろん、ダウンタウンだ。出演情報だけで、何をするかは発表されていない。本来なら劇場に足を運ばなければならないものを気軽に観られるというのは、有難い限りだ。医療を発展させてきた戦争は必要悪だ、とかドヤ顔で口にするガキにはウィル・スミスビンタを浴びせればいいと思っているが、どれほど悲劇とされているもの、あるいは幸福とされているものでも立場によっては違った捉え方をする人がいるのは当然で、世界的にクソとされている、そして俺もクソだと思っているコロナ禍も、お笑いファンからすれば「ライブのオンライン配信の普及」というプラスの側面を生み出したことは否定できない。尤も、お笑いライブの配信が普及することもまた、立場や価値観によっては必ずしも歓迎できないだろうが。

 ウィル・スミスの名前を出したんで、余談ながら軽くあの件について触れよう。誰かを笑い者にして傷付ける日本の笑いは欧米に較べて遅れている論者がどいつもこいつもダンマリ決め込んでいるのはまあ、連中が知ったかぶりの欧米出羽守だということは分かりきっていたことなので今更どうでもいいとして、アメリカ世論やアカデミー賞アメリカのおセレブの価値観っつーのはマジで訳分からんなあと些か驚いた。が、人間の価値観なんてのは生きていく中で育まれているものな訳で、アメ公にはアメ公の、露助には露助の、ジャップにはジャップの価値観がある。もちろん、その中でもグラデーションはある。俺はウィル・スミスの方がかなり痛烈にdisられるアメリカ世論の価値観を全然理解できないが、それでもそういう文化と価値観なのだと尊重する。キリスト教なんざ年季が入ってるだけのカルト宗教じゃねえかと思うが、俺だって神社の境内に唾を吐けと言われれば多少躊躇する。「俺はウィル・スミスの方が批判されるの理解できないなあ、日本の世論もそういう意見の方が多いなあ、でもアメリカだと逆なんだあ、文化の違いやねえ」はい、これで終わりである。原爆投下は正当化できると未だに国民の過半数が思っているようなファッキン宗主国の価値観が絶対的に正しいとは限らない。唯々諾々と受け入れる必要はない。中華を祭り上げて日本はNo.2の座に就き、シン・大東亜共栄圏を作るべし。

 さて、伝説の一日に話を戻す。お笑いライブを配信で観るのは、永野が酒を飲んで他の芸人を論破していくやつ以来だった。ドキドキしながら、伝説の一日のアーカイブを再生した。以下、ネタバレありの感想だ。

 前説はみんな大好きレギュラー。松本くんがお馴染みの「ドゥドゥビィ♪ ドゥバァ♪ ドゥビィ♪ ハイッ! ハイッ! ハイ、ハイ、ハイッ!」と元気よくリズミカルに口にする際、西川くんが「ハッ!ハッ!ハッ!」と裏拍を取っているのが妙に面白かった。昔は無言でニコニコしているだけだったのに。

 前説の後の口上は、海原やすよ・ともこ&中田カウス。司会はあべこうじ。緊張気味のやすとも、あべこうじに対し、終始笑顔のまま、心底楽しそうやけどホンマは冷え切ってんちゃうやろか、と勘繰ってしまう胡散臭い喋り方で滔々と話す中田カウスが最高だった。マジで、一秒も真顔の瞬間がない。ずっとタレ目で口角上がりっぱなし。皮肉や厭味ではなく、中田カウスのこういう怪人っぽいところが好きだ。つくづく、『アウトレイジ』シリーズに出演して欲しかった。

 口上が終わり、トップバッターはさや香。人体の不思議というネタだ。

石井「人体の70%は水なんやって」

新山「へえ!(ちょっとしたボケを挟んだあと)歴代彼女、何人いる?」

石井「10人くらいかなあ」

新山「え、ていうことはホンマは3人ってこと?」

 という件は面白かったが、歴代彼女の人数を尋ねる質問に若干の唐突さというか御都合主義感というか作為性というか、を感じた。歴代彼女の数を尋ねた時点で新山は既に「人体の7割が水なら、人数×0.3がホンマの人の数や」と思っている訳で、だったら「人体の7割が水」と石井に言われてすぐ「じゃあ、10人おってもホンマは3人ってことやん」と返すのが会話としては自然だ。それなのにあえて歴代彼女の質問を挟んだのは、「10人は実質3人」という抽象的な表現よりも「歴代彼女」という具体性を持った人数が雑に減らされてしまう方が明らかに面白い、というのを新山が理解しているからだ。そこがちょっとだけ醒めてしまった。「人体の70%は水やねんて」「じゃあ、イナバ物置に乗ってるのはホンマは30人ってこと?」とかの方が会話の流れとしては綺麗だ。けど、相方の歴代彼女が減る方がオモロいよなあ、歴史とか思い出が詰まってるから。難しいところや。

 などと、コンマ数秒で思考した。漫才を観てこういうことを瞬時に考えるようになったら、人として終わりです。何故なら、視聴者の中でお前しか気にしていないから。ベロ嚙んで死になさい。

 二組目はスーパーマラドーナ。俺は上沼のえみちゃんのフアンなので、ニューヨークの活躍に歯軋りするパンツマンのファンと同じ気持ちで観るつもりだったが、武智の覇気がなさ過ぎて心配になった。ネタに合わせてあえてそういうトーンだったら、すんません。

 三組目はビスケットブラザーズ。シュッとしてはらへんので人気爆発とまではいっていないが、やっぱり面白いコント師です。

 四組目は2丁拳銃。むちゃオモロかったです。

 五組目は横澤夏子阿藤快が言うところの「好きな人には堪りませんねえ」というやつでしたが、「〜に多いです」という一言で一度笑った。

 六組目はあべこうじ。妻・高橋愛がめちゃくちゃタイプなんで嫉妬しまくりながら観ましたが、舞台慣れしまくった職人っつー感じがして面白かったです。

 七組目はまるむし商店。何をしていたのか全く覚えていない。

 八組目は「中田カウス 漫才のDENDO ゲスト:すゑひろがりず」。すゑひろがりずがネタを披露したあと、中田カウスと軽くトークをするという流れ。すゑひろがりずの漫才とトークは面白く、中田カウスは俺の大好きな中田カウス節を炸裂させていました。『ゴッドファーザー』を日本でリメイクするなら、バルジーニ役は中田カウスで決まりです。もちろん、劇中では真顔で。

 換気のための休憩を挟んで、九組目はコロコロチキチキペッパーズ。平場のナダルの奇人ぶりが好き過ぎるので、漫才を見ても西野のボケがパンチ弱く感じてしまいました。

 十組目は月亭方正。ガキ使にまつわる鉄板トークでした。いずれは方正の落語を見に行こうと思う。

 十一組目はジャングルポケット。コントなのに、明転して客席に軽くお辞儀してしまったおたけが可愛かったです。ネタはコントコントした濃い味付けでしたが、バズレシピと違って自覚と品のある濃さでした。名前を覚えてないけどバズレシピのあの料理研究家、料理に罪はないとか言ってロシアのウクライナ侵攻後にロシア料理を紹介するあの感じ、きちんと全部に言い訳を用意しているあの感じ、海砂利水魚の比じゃないくらい邪悪なお兄さんですよ。

 十二組目はライセンス。藤原が過去一、藤井隆に似ていました。

 十三組目は木村祐一の写術。クスッと笑えるタイプのネタ。餃子をめちゃくちゃ推している中華屋のメニューの写真を見せたあと、「一番人気チャーハン!」という写真を出した際、キム兄の芸風的に「どっちやねん!」とか強めにツッコミそうなもんだが、「まあ、中華屋ですからねえ。みんなでシェアして、ってことですかねえ」などと穏やかな口調で言っていたのが少し意外で、面白いなあと思いました。好きなネタでした。案外、キム兄のことが好きな俺です。ダウンタウン組はみんな好きです、ほんこんでさえ。あの、ほんこんでさえ。

 十四組目はCOWCOW。楽しそうで何よりでした。

 十五組目はテンダラー。浜本の不倫騒動のネタへの組み込み方がクール。ベテランの余裕と風格という感じ。ただ、他の組の持ち時間が3〜4分のところ、何故か8分くらい使っていたのが不思議でした。

 十六組目は海原やすよともこ。ぶっちゃけステレオタイプ感さえある大阪・東京の違い話も、切り口に斬新さはないがきっちり面白い。巧い監督が撮ったお約束だらけのアクション映画みたいだ。

 幕間は四組の芸人による1分ショートネタ。MCはおいでやす小田。囲碁将棋がこの枠かあ、漫才オモロいのに……という思いと、小田が幕間を「まくま」と言っていたのが気になった。ガリットチュウの暴力的な笑いが好きだった。

 そして、真打・ダウンタウンが登場する。出囃子はEPOシュガーベイブの名曲をカバーした「DOWN TOWN」で、舞台の中央にはサンパチマイクが現れる。お、と思わず小さく声が出た。内容は、チンピラの立ち話でした。良い一日でしたよ。終わり。