沈澱中ブログ

お笑い 愚痴

女帝っちゅうたら小池百合子なんかやのうて、上沼恵美子なんやわ

 俺はお笑いが好きだ。が、ネットでよく見かける「お笑いファン」には若干の悪感情を抱いている。理由はいくつかあるが、一番の理由は、例の武智と久保田のインスタライブが批判を浴びた際、誰もが口を閉ざしていたからだ。自分らの大好きなお笑いが少しでも侵されれば、BPOめ!ポリコレめ!フェミめ!差別と言う方が差別なんですー!などと鼻息荒く持論を展開するのに、えみちゃんへの「嫌いです、なんて言われたら、更年期障害か?と思いますよ」っちゅう暴言はフルシカトっすか、それとも世論や他のお笑いファンの意見が出揃ってどっちに付いた方が得策か判断できるようになるまでは知らぬ存ぜぬ我関せずっすか、情勢を見極める優れた軍師にでもなったつもりか知らんけど、情勢が落ち着くまで動けへん奴は単なる腰抜けっちゅうねん……などとイラついたことを覚えている。

 俺は上沼恵美子a.k.aえみちゃんのフアンだ。大阪人はみんなえみちゃんが好きやでー、などとのたまうつもりは毛頭ない。大阪人でも関西人でも、えみちゃんを好きではない人は少なくない。俺も、えみちゃん同様に「大阪」の象徴的な扱いを受けているやしきたかじんや維新のことは全く好きではない。大阪人はガチで全員たこ焼きが好きだが、お好み焼きをおかずに米を食う奴は別に多数派ではない。

 えみちゃんは面白い。そして、格好良い。宮迫らの闇営業騒動後、「嫌いにはならない。応援する」と語るFUJIWARAの二人に「なんかスポーツマンの仲間みたい。ライバル違うの? そんなことなって、『スッとしたわ。消えるし』とか思わなかった?」「芸能界は椅子取りゲームやもん」「私なら消えてくれてよかったなと思うかも。私はそうだった。お姉ちゃんと漫才やってたときに、上が消えてってくれたらいいのにと思いました」「私が若いときと時代が違ってる。けど、だからいまの芸人はオモロないねん。頭ひとつ出たろと思わないから。みんなで一緒に『オモロないようにしよな』ってスクラム組んでんねやろ」と痛烈な言葉を浴びせた様には、その後、やや重たくなった空気を笑いで和ませるところまで含めて、非常に痺れた。

「実家は大阪城」「父親の遺産の淡路島を日本政府に貸している」「財産目録に琵琶湖がある」「通天閣は上沼家の物干し台」「金閣寺を購入したときのポイントで家電一式を揃えた」といった有名なホラの数々は、先日生前退位を表明された黒瀬深陛下のホラの数々とは較ぶべくもないユーモアを孕んでいる。そこそこ旨いつけ麺屋を経営しているシャンプーハットのてつじを寵愛したり、同じく寵愛していたカジサックと詳細不明な、しかし満更デマでもないらしいトラブルを起こしたりしている点も、人間臭くてチャーミングだ。以前ココリコ遠藤のYouTubeチャンネルに出演していたカジサックは、「揉めてはいないが、何かしらはあった。でも、詳細を話すと色々な人を傷付けてしまうから言えない」と前置きをした上で、「死ぬまで上沼恵美子さんを尊敬している」と断言していた。根拠はないが、本心っぽかった。

 礼儀にうるさく、ズケズケとモノを言い、ステレオタイプな「お茶の間の主婦」よろしく芸能人の不倫に厳しく、大ホラ吹きで、めちゃくちゃ金持ちなのに庶民的で、案外夫を立てる性格で、しかし姑の悪口はよく言い、吉村イソジン知事辺りの見た目それなりにシュッとしたタイプにはコロッとイカれてちやほやし、過去にスキャンダルがあったりした芸能人がゲストに来ると妙に優しく接することもある、嘘みたいに顔を白く塗った嘘みたいに面白い芸人、それがえみちゃんだ。武智と久保田の件のあと、松本人志がわざわざ詫びを兼ねた挨拶のためだけに大阪を訪れる人物であり、千鳥ノブが「女子史上一番面白い」と(その後の「けど、島田珠代が迫ってきている」というコメントのための前フリとはいえ)褒め称える人物なのだ。古き良きヤクザの大親分やマフィアの首領のような風格とキャラクターだ。『グッドフェローズ』を初めて観たとき、ジョー・ペシレイ・リオッタを理不尽にツメてから冗談だと笑う最悪で最高なシーンで、「えみちゃんみたいやなあ」と思ったのをよく覚えている。

 突き抜けた俗物は、聖人の如き輝きを帯びる。えみちゃんは女帝でありながら同時に、神話に登場するキレどころの分からん神のようでさえある。そんなえみちゃんがお笑いファンのヘイトを集めてしまったのは、ひとえにM-1の審査が理由だろう。俺はM-1のスポーツ大会化やM-1が加速させた「芸人は格好良い、芸人の知られざる苦労や裏側は格好良いということは隠さず見せてもいいのだ」という昨今の風潮が嫌いだから余計に思うのかもしれないが、えみちゃんのM-1の審査はあそこまで苛烈に批判されるほど酷いものではない。ギャロップとミキの自虐の比較は、依怙贔屓ではなく筋の通った審査としか思えなかったし、最後の出場となった和牛への激しめの言葉も頷けるものだった。自分のCDの宣伝を始めるくらいの小ボケは許してくれよ、アレがそんなにダメなら、2020年までのキングオブコントの審査員は全員死刑にでも処されてしまうでしょうが、と俺は思うが、諸君の見解はいかがかね。

 えみちゃんの2021年M-1審査員続投とYouTubeチャンネル開設というめでたいニュースを知り、この記事を書いた次第だ。今年のM-1終了後、もしまたM-1を愛するお笑いファンの皆様がえみちゃんを批判した場合、2016年から2021年までの6大会分全てのえみちゃんの点数と審査コメントを抽出してえみちゃんを擁護し、えみちゃんを批判していた人々を撃っていく所存だ。異教徒は皆殺し、我、狂信者なり! 最近、ヒラコーの『HELLSING』読み返しましてん。7巻のラスト、アーカードが幽霊船で帰還したシーンは、漫画史上に残る美しさです。終わり。